地方出身者たちの憧れの街で、颯爽と東京の大学生活をスタートさせた資産家の一人娘。誰もが羨むそのデザイナーズマンションの一室には、思わぬ罠が隠されていた!
つい先月、都内の大学に通っている姪から連絡が入り、「サークルの後輩の相談に乗ってもらいたい」と頼まれました。そこで待ち合わせ場所へ出向いてみると、姪と一緒にいたのはいかにも育ちが良さそうな雰囲気のお嬢さんでした。「彼女が住んでいる部屋、おかしいらしいの。叔母さんの力で何とかしてあげて!」姪にそう言われて、本人に話を訊きました。「幽霊が出たとかいうのではないんですが、毎日のようにおかしなことが起きるんです。朝、起きるとテーブルに置いた物の位置が変わっていたりとか、テレビが勝手に点いたり消えたり、エアコンのスイッチが急に入ったり、とにかく普通じゃないんです!」
その子は今年の3月、大学入学を機に地方の実家を出てその部屋に引っ越したそうです。以来、何となく体調がすぐれないとも訴えていました。夜中に金縛りに遭うこともしょっちゅうだそうで、できればすぐにでも引き払いたいのだが、毎月の賃料を出してくれている実家の父親に申し訳なくて言い出せないのだと。
私は二人に連れられて、問題の部屋へ出向きました。そこはM市の中心街にある、豪奢なデザイナーズマンションの一室。間取りは2DKの分譲タイプで、一人暮らしの学生には分不相応な物件でした。「この部屋、無理を言って父に借りてもらったんです。だから今さら他へ引っ越したいなんてとても言えなくて…」
彼女の話を聞く間、私は室内全体から発せられる凄まじい違和感に圧倒され続けていました。一言で言えば、その場の時空に著しい歪みが生じていたのです。多くの場合、そうしたことは電磁気の異常によって起き、ポルターガイスト現象などを引き起こす原因ともなります。しかし付近には大量の電気を消費する工場の類や高圧電線などの施設もなく、また異常電磁波発生の条件に当てはまらなかったため、他に何か霊的な原因があると判断しました。
そこで間取りの中心部に当たるダイニングに腰を据え、空間全体を詳細に霊視してみました。結果、分かったことはふたつ。ひとつは間取りを取り巻く四方の壁に呪物が埋め込まれている、ということ。それは恐らく人の生き血で書いた呪符を貼り付けた上で、五寸釘を打ち込んだ藁人形です。そしてもうひとつは、この禍々しい呪術の仕掛けを作ったのが、他ならぬ部屋の家主であるということ。その真意まで探ることはできませんでしたが、たぶん家主は一種の実験として室内を改装し、そこに店子を住まわせているのでしょう。まさに狂気としか言いようのない所業です。私はお嬢さんの父親と電話で直接話をして、すぐに引っ越しをさせました。あと数ヶ月遅かったら、彼女の命は危なかったと思います。
その後、業者関係のツテを使って特別に調べてもらったところ、過去の店子たちはいずれも失業や離婚、健康上のトラブルなどにより一年未満でその部屋を引き払っていることが明らかになりました。もちろん、この部屋は今も存在しています。
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