知らずに恐ろしい因縁のある土地に家を建ててしまい、日々怪現象に遭遇している若夫婦。
「助けて欲しい」と頼まれて現地へ行った霊能者だったが、付近から発せられる凄まじい邪気に圧倒される。
その建築会社の社長さんからお電話をいただいたのは、一昨年の春のことです。「じつは今、お客に訴訟を起こされそうになって困ってまして。何とか一肌脱いでいただけないでしょうか」事情を訊いたところ、昨年、家の新築を請け負った客から欠陥住宅だというクレームが入り、慌てて家屋の調査と追加の工事をしたのだが、物理的な修繕ではどうにもならないことが分かったそうです。
「それはつまりどういうことですか」「とにかく家の至るところから水が出るんです。私が言葉で説明するより、実際に見ていただいた方が早いと思います」私はさっそく現地へ伺いました。
最寄り駅で出迎えてくれた社長の車に乗り、畑地や雑木林の合間に新興住宅街の塊が点在する見慣れたベッドタウンの風景を走ること十五分。問題の家へ到着し、車が停止したのですが私は座席を離れることができませんでした。着くなり多数の下級霊が湧き出してきて、瞬く間に車の周囲を取り囲まれてしまったのです。(いったいこの土地は何なの!)
何度も九字を切り直して強力な結界を張った後、ようやく車外へ出ることができました。四方は見渡す限り耕作放棄地が広がり、その真ん中に一軒だけポツンと新築家屋が建っている状態。家主の30代夫婦に話を訊いたところ、奥さんの実家は古くからの地主でその父親の急死に伴って、一帯の土地を相続したのだと。「もちろん売却も考えたんですが、農地転用の手続きが面倒でおまけに税金がすごくかかるので、とりあえず自分たちの家だけを建てたんです。それがこんなことになってしまって」思わず嗚咽する奥さんをなだめると、旦那さんが「まずは見てください」と案内してくれました。
初めに通されたのはベッドルームでした。指差した天井を見ると一面に黒い染みが広がっており、それは完全に人面の形を成していました。似たような不気味な染みは二階の二部屋と押し入れ、納戸、廊下奥の壁など至るところにできており、数えるとその数は三十ヶ所以上に及びました。「水でできた染みであることは私共も確認しました。しかし結露や雨漏りが原因ではないんです。それが証拠にいくら対策工事をしても全く効果がなくて」社長はそう言うと頭を抱えました。「うちとしても誠心誠意やってみたのですが、ご主人様がどうしても納得してくださらなくて」その言葉が勘に障ったらしく、激昂した旦那さんが社長と押し問答を始め、急に険悪な雰囲気になりました。するとその様子を嘲笑うかのようにゲラゲラという笑い声が響き渡り、やがて家中が哄笑の渦と化しました。「ああ、また始まった!」叫ぶなり真っ先に玄関へ飛び出したのは奥さん、それに旦那さんと社長も続き、屋内には私だけが取り残されたのです。見上げると天井の顔の形が変わり、大口を開いて笑っていました。
この物件については今も未解決です。何度やってもお祓いの効果が出ず、いまだに土地に関する因縁さえ掴めていません。
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