今回ご紹介するのは、都内有数のセレブの街として知られるS区内の某所に建つ某マンション。その入り口の奥にあるロビースペースで、夜な夜な起きるという怪事とはいったい?
大手ディベロッパーの関連会社から緊急の連絡を受け、東京のS区にある某大型マンションへ行った時の話です。指定された住所にある建物の前でタクシーを降りた途端、私を呼び出した顔見知りの担当者が飛び出してきて、「先生、ちょっと今、正面からはまずいので」と袖を引かれました。「一体、何がまずいんですか?」と尋ねると、「幽霊が出るという深刻な苦情で駆けつけたんですが、それを知った理事長さんが怒っちゃって今、管理人室の前で揉めているんですよ」という事態になっていたのでした。彼が言うには、そのマンションのエントランスロビーには夜な夜な女の霊が出没するそうで、つい昨夜は目撃した女性が気絶して救急車と警察が呼ばれたのだと。しかし、その一方で「おかしな噂が立ったら資産価値が下がる」と怒っている所有者達もおり、理事長もその人達の味方で、「お祓いなんて馬鹿な真似はさせない」と同行してきた彼の上司を叱責しているというのです。
しかたなく、いったんその彼と一緒に近くの喫茶店に引っ込み、詳しい事情を訊かせてもらうことに。それによれば、霊が目撃され始めたのは一年半ほど前からで、最初にそれを見たのは常駐の管理人だったそうです。「夕刻、定時の見廻りを終えて一階に戻ったら、目の前に髪の長い中年女がうつむいて立っていたそうです」最初はエレベーターに乗り込むのかと思い、会釈してその前を通り過ぎたそうですが、ふと気になって振り向くと女は依然として同じ場所に立ち尽くしている。どうかしたのか?と声を掛けると、まるで煙のようにその姿が掻き消えたのだと。
そして、その日を境に管理人と同様の体験をした住人が続出。ほとんどの目撃者は深夜帰宅してきたサラリーマンやOLで、いずれもエントランスからロビーの付近で不気味に佇む女と出くわし、それが一瞬のうちに消えるというところまで同じ展開でした。
そんな次第で夜を待って再び出向いてみると、ロビー全体が恨みの念で重く濁っていました。目の前で次第にその念気が凝固して女の形となり、対峙することとなりました。年頃は四十代後半。服装は喪服のような黒のスーツ。証言通り、背中まで届く黒髪を手前にバサリと垂らし、髪の隙間から覗く三白眼の大きな瞳でこちらをじっと睨みつけてきました。波動でコンタクトし、ひとまず鎮霊して消えてもらったのですが、完全な浄化には至りませんでした。
「何か分かりましたか」と隣にいた担当者に訊かれ、私は正直に答えました。「昼間、怒っていたという理事長さんに恨みを持つ女性です。元はその人の愛人だったようですが、別れ話に悩んで自殺したみたいです」。当事者である理事長の部屋には、この女の霊が常時出没しているはず。さほど霊感がなくても見える強い恨み霊なので、気づかないはずはありません。当人が怒っているというのは、自分が原因であることを隠蔽するためだと分かりました。理事長がそのマンションに住み続ける限り、女の霊も居座り続けるでしょう。
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