不動産屋が客に部屋を斡旋する際の常套文句に、「この部屋は有名人の××が売れる直前まで住んでいた部屋です。だからあなたもここに住めば、きっとツキが巡ってきますよ」あるいは「ここに入居した独身女性は、必ず結婚して出て行くんです」という類のモノがあります。本当に運が良くなる部屋なら最高なのですが……。
今年の秋、上京して大学に通っている姪の友人である、Aさんという女性から相談を持ちかけられました。
新しいマンションの部屋に引っ越して以来、奇怪な現象や幽霊らしき存在に遭遇するようになったという話でした。かなり困っている様子だったので一肌脱ぐことにしました。
「今、姉と同居しています。その部屋、独身の女性が入居するとすぐに縁づくジンクスがあるって不動産屋が言っていました。私は眉唾だと思ったのですが、姉がその気になっちゃって。それで、住み始めてしばらく経った頃から変なことが起き出して……」と、彼女は憂鬱な表情で切り出しました。
最初の頃は室内の物品が頻繁に移動するような出来事が頻発したそうです。台所にあるはずの食器類が彼女の部屋のベッドの上に置かれていたり、ベランダの鉢植えが廊下に転がっていたり、ある時はクローゼットに収納したドレスが浴槽の底に沈んでいたこともあったそうです。
当然、疑いの目は同居するお姉さんに向けられましたが、その姉が仕事で出張している間にも物体移動の怪現象は続き、彼女は第三者が部屋の合い鍵を所有して日中、密かに忍び込んでいるのではないかと考え始めました。
しかし、心当たりは皆無。それは出張から戻ったお姉さんに聞いても同様でした。
「合い鍵なんか渡す相手、いないわよ。第一、そんな相手がいたら、そもそもアンタと同居なんかしないし。自分で物を動かして、忘れているだけじゃないの?」と、まるで取り合ってはもらえませんでした。
その日はお姉さんが出勤中とのことで、2LDKの屋内を気兼ねなく見て回ったのですが、すぐに複数の地点で霊的磁場の著しい乱れを感じ取りました。部屋があるのは建物内の三階なのですが、磁場の乱れはその直下の地底部分から立ち上がってくる澱んだ霊気が原因しているようでした。
あらためて霊視してみると、石棺に閉じ込められた亡者の群れのイメージが浮かんできたため、その場で不動産物件に関する独自のデータベースを持っている業者に連絡。当該マンションが建設された経緯などをできる限り詳しく調べてもらったところ、「そこのマンション、寺の墓地跡を整地して建設されていますね。あと建設途中に遺跡も発見されて、工事が一時中断しています」と言われました。
さらに電話を切ったばかりの私の目の前を複数の黒い影が横切り、そのままサッシをすり抜けてベランダの外へ消えていったのです。その姿形を彼女に説明すると、「ああ、私が時々見ているヤツと同じです……」との答えが返ってきました。
独身女性が縁づく部屋の真相は、そこに出る幽霊と怪現象が怖くて男性を部屋に呼び、それがきっかけで結婚に至ることが多い、ということだったようです。その後、室内のお祓いをしましたが、かなり根の深い心霊現象なので一度で解決するのは無理でした。相談者は霊感の鈍いお姉さんを残し、独りだけで引っ越すことを密かに計画中とのことです。
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